
「ごくあたりまえの生活」を求めて
やどかりの里は,1970年に生まれました.
精神障害のある人たちが,病院の外で地域のなかで暮らしたいと願い,
その思いに寄り添いながら,ともに歩んできた場です.
日本では長く,精神障害のある人たちは,隔離や入院を前提とした制度のなかで差別や偏見にさらされてきました.
そうしたなかで,「地域でふつうに暮らしたい」と一歩を踏み出した人たちがいました.
やどかりの里は,その願いにこたえる形で,支え合う関係を築き,安心して自分らしく暮らせる地域社会の実現をめざしてきました.
活動理念
やどかりの里が大切にしているのは, その人にとって「ごくあたりまえ」と思える日々の暮らしです. それは,まわりと同じように生きることではなく, 無理なく,自分らしく過ごせる日々を積み重ねていくことです. こうした思いは,日本国憲法や障害者権利条約にも通じています. 障害のある人も,そうでない人も, すべての人が平等に人権を持ち,自分らしく暮らせることがうたわれています. やどかりの里では,障害を「生活のしづらさ」と捉えています. それは,その人自身だけの問題ではなく, まわりの環境や社会との関係のなかで生まれるものだと考えています. だからこそ,その人を変えようとするのではなく, いっしょに考え,いっしょに工夫しながら, できることを少しずつ形にしていく―― そんな関わりを大切にしています. 私たちは,誰もが安心して自分らしく生きていける社会を目指して, 学び合い,声を届け,つながりを広げる取り組みを続けています.
活動方針
やどかりの里では,かかわる一人ひとりが「主人公」です.
それぞれの思いや意見を大切にしながら,
日々の暮らしや活動を,いっしょに考え,つくっていきます.
病気や障害があっても,
健康に気をつけながら暮らすこと,働くこと,活動を続けること―
そんな日々の積み重ねの中で,たくさんの体験や知恵が生まれます.
その知恵を分かち合い,
社会全体の気づきや学びにつながっていくことを願っています.
さいたま市をはじめ,埼玉県内,そして全国の仲間たちと力を合わせて,
誰もが自分らしく暮らせる地域社会を,これからもともにつくっていきます.
<活動の柱> 1.主体的に考え,動く 1人1人が,自分の関心や思いを出発点に,考え,関わり,行動しながら,これからのやどかりの里をともにつくっていきます. 2.支え合いながら,地域に根ざした福祉を広げる 医療とは少し異なる視点から,回復や社会とのつながりを支える福祉的な活動を,地域のなかで育んでいきます. 3.安心できる精神科医療を目指して 治療について納得し,安心して受けられるよう,関係者とともに患者中心の医療のあり方を考え,広げていきます. 4.協力しながら,働く場をひらいていく 競争ではなく,おたがいに力を貸し合えるような環境を目指して.地域の方々,福祉施設,企業や関係機関と手を取り合いながら,働く場を広げていきます. 5.くらしを支える仕組みを守る・育てる 人としての権利がきちんと守られるよう,社会保障制度や施策がよりよくなるように,声を届ける取り組みを大切にします. 6.応援してくれる仲間を増やす 活動を支えてくれる人たちの輪を広げながら,財政的にも安定して活動を続けられるよう,工夫を重ねていきます. 7.地域の中でともに生きる 他の福祉施設や団体と手を取り合い,つながりを地域に広げながら,ともに生きるまちづくりを進めていきます.

増田 一世
代表理事
ご挨拶
やどかりの里は,1970年に,精神障害のある人たちとともに地域で暮らすことをめざして,その歩みを始めました.
病院の外で,ごくあたりまえの暮らしを営むことがまだ困難だった時代.制度も補助金もなく,資金も経験も十分ではありませんでしたが,私たちは「ともに生きる地域をつくりたい」という願いのもと,小さな実践を1つ1つ積み重ねてきました.
「病気や障害があっても,自分らしく暮らせることはあたりまえのこと」――
その思いを胸に,さまざまな困難に向き合いながら,支え合う人の輪を広げてきたこの半世紀の道のりは,私たちにとって,何よりの宝物です.
活動のなかで私たちは,誰かが誰かを一方的に支えるのではなく,それぞれの思いや選び方が尊重され,対等な関係のなかでともに歩んでいくことの大切さを学んできました.
そうした営みの先にあるのが,「1人1人が主人公」という私たちの合言葉です.この言葉には,やどかりの里の根幹が込められています.
現在では,就労・住まい・地域活動など多様な場をひらきながら,約300人のメンバーが,地域のなかでそれぞれの生活を営んでいます.その日々は,支援される/するという関係を超えて,「共にある」ことの豊かさを教えてくれます.
これからも,障害や病気があっても「生きていてよかった」と感じられる地域を,みなさんとともに築いていきたいと願っています.今後とも,やどかりの里の活動にあたたかなご理解とご協力を賜れましたら幸いです.
あゆみ
やどかりの里は,1970年に,精神障害のある人の地域での暮らしを支えることを目的として設立されました.当時は,制度や補助金も整っておらず,手探りのスタートでしたが,地域に根ざした暮らしの実践を,地道に積み重ねてきました.
こうした取り組みは,精神障害のある人の退院・地域移行を支える先駆的な試みとして注目され,のちに創設された精神障害者社会復帰施設制度(精神保健法に基づく)にも,大きな影響を与えました.
現在は,さいたま市を中心に,就労の場や住まいの場,地域活動支援センター,生活支援センターなどを運営し,障害のある人の地域生活を支える多様な取り組みを展開しています.法人全体では,約300名のメンバー(障害当事者)が,それぞれのかたちで関わっています.