top of page

活動ビジョンを描く

  • 執筆者の写真: やどかりの里
    やどかりの里
  • 4月15日
  • 読了時間: 5分

Ⅰ.私たちを取り巻く状況


2026年は障害者権利条約採択から20年,障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)施行から20年となる.この間,障害福祉を取り巻く状況は大きく変わった.2008年,全国一斉提訴した障害者自立支援違憲訴訟を皮切りに,多様な人権運動が展開されてきた.生活保護引き下げ違憲訴訟,優性保護法違憲訴訟,精神医療国賠訴訟,65歳問題を訴えた天海訴訟など,いずれも法制度の違憲性を司法に訴え,日本社会が抱える偏見・差別の根深い問題を浮き彫りにした.優生保護法問題は現在,原因究明,再発防止策などを協議する検証会議や国との定期協議が始まっている.再発防止のための方策を検討し,国内人権機関の設置などに向け運動の力を結集させることが求められている.同時に,被害を受けたすべての人へ補償が行き届くようリーフレットの配布などが行われている.また,生活保護引き下げ違憲訴訟は司法の軽視ともとれる厚労省の姿勢に新たな審査請求の動きが検討されている.


一方,障害分野は市場化の流れが進み,専門性の低下が懸念され,障害のある人への虐待はこの10年で2倍に増えた.日額払いによる報酬支払制度や常勤換算方式の導入,度重なる報酬改定で職員の非正規化が進み,実践現場における職員不足は深刻だ.2025年度にきょうされんが実施した緊急調査でも事業所の約84%が職員不足と回答し,正規職員の充足率は56%,新卒者の採用は14%に留まっている.職員不足は支援の質の低下を招きかねず,障害福祉制度の抜本的な見直しや基本報酬の拡充などが求められる.


精神医療においては,厚労省は地域医療構想の中で精神科病床の削減の方向性を打ち出した.この機会に差別的な精神科医療が抜本的に見直されるのかが重要である.病院から地域へという動きの中で,地域生活を支える体制は脆弱であり,入院している人の退院後の暮らしはどうなるのか.これらの動きが,精神医療の構造改革の実現につながるためには,国連の権利委員会が示した総括所見が求める精神医療・保健福祉改革に国が本腰を入れて取り組むことが求められる.


自然災害の影響も大きい.2024年1月に発生した能登半島地震はその後の豪雨災害も重なり,人口減少なども相まって福祉事業所は深刻な担い手不足が続いている.障害のある人の暮らしの再建はまだ道半ばだ.そして,東日本大震災から15年,福島第一原発事故で県外に避難している人は4万人以上と推計されている.今般の物価高騰も1人1人の暮らしへの影響,事業運営など法人全体にも影響を及ぼす.こうした状況を見過ごすことなく,幅広く連帯し声を上げていく.


2026年は憲法公布から80年になる.現政権は安全保障政策の強化,改憲原案を作成する条文起草委員会の設置など憲法改正の動きを強めている.国際情勢も緊迫し,今年2月,国際法を無視してアメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃で,多くの命が奪われた.私たちの日常生活にも大きな影響を及ぼしている.ロシアのウクライナ侵攻も終わりが見えない.戦時下で障害のある人たちは厳しい状況に置かれ,また戦争は障害者を生み出す.


2026年度は,国内外の情勢を捉えつつ,人権保障のたゆまぬ運動を進め,精神障害のある人の地域支援態勢づくりに知恵を出し合い,実践を積み重ねていく.


Ⅱ 活動方針


やどかりの里は活動の節目で調査活動に取り組み,障害のある人の実態を掴み活動を進めてきた.1999年~2000年にメンバーと職員の状態調査,2006年に家族の状態調査に初めて取り組んだ.2024年~2025年には3つの状態調査(職員・メンバー・家族)に取り組み,いずれの調査からも未だ変わらない精神医療の構造的な問題,家族依存の課題が鮮明になった.


2026年度は状態調査の結果を共有し,地域に障害福祉サービスが乱立する中で,やどかりの里の果たす役割を確認し合い,地域支援体制づくりに向け中期的活動ビジョンを確認していく.今回の状態調査では,メンバー,家族がやどかりの里のことを大切に考えている声も多く聴かれた.改めて対話と協働の実践を基本に,メンバー,家族の経験を共有し,生かし,共同創造を法人全体に根づかせるべく以下の3点を重点方針とする.


1)話し合いを重ね60周年に向けたやどかりの里の活動ビジョンを描く

ビジョン検討委員会を設け,やどかりの里の3つの状態調査の結果を共有し,課題を明確にする.メンバー,家族,職員,役員らで継続的な話し合いを行う.併せて,地域で活動する民間団体や市内の精神科医療機関などとも状態調査から見えてきた課題を共有し,今後の精神保健医療福祉,地域生活支援のあり方を議論していく.これらの機会を通してやどかりの里で取り組むこと,地域の関係者とともに取り組むことを整理し,60周年に向けた活動ビジョンの具体化を図る.


2)生活支援活動のあり方を見直し,メンバー,家族が参画する機会を広げる

精神科病床削減の方向性が検討されていく中,退院後の地域生活をどう支えるのか,入院している人たちのニーズを把握しつつ,地域支援の課題を明らかにする.ベルギーやイタリアなど,入院中心から地域生活中心へ政策転換した実践から学びながら,やどかりの里としての生活支援のあり方を検討し,具体的な取り組みにつなげる.また,障害者総合支援法は,支援者と支援される人を二分し,職員中心の活動に傾きやすい.やどかりの里のさまざまな活動にメンバー,家族が参画できる機会を幅広く創り出し,彼らの体験に基づく知見を活かした取り組みを広げていく.


3)社会を見る目を育て,人権意識を磨くための学習,そして社会に働きかける運動への参画

看過できない国内外の諸問題があり,生きづらさを抱える人たちが広がっている.障害福祉サービスにも効率や競争という考え方が入り込み,その結果,視野が狭まり,ゆとりが失われる.今問われているのは私たちの人権意識ではないか.だからこそ,意識的に社会の動きに関心をもち,学び,障害のある人の実態とニーズに照らして,何が大切なのか,自分たちで考えていく必要がある.それは人権意識を磨くことに他ならない.国連の障害者権利委員会の総括所見は,日本に対し,能力主義,優生思想からの脱却を求めている.日本国憲法や障害者権利条約を基本にして,社会の事象を読み取る学習を続け,障害福祉領域に限らず,子どもや女性,高齢分野の人たちとの幅広い連帯を進めていく.



bottom of page