
ごくあたりまえの生活を求めて
日本では,精神障害のある人たちが,
長年にわたり隔離や入院を中心とした政策のもと,
差別的な扱いを受けてきました.
やどかりの里はそうした状況の中で,
「地域で暮らす」というあたりまえの願いを形にするために,
1970年に生まれました.
病気や障害があっても
「生きていてよかった」と感じられる日々を求めて,
今も活動を続けています.
活動理念
「ごくあたりまえの生活」とは, ただ人並みの暮らしをするということではなく, その人にとって,自然で無理のない,日々の暮らしを意味しています. この思いは,日本国憲法や,2014年に日本が批准した障害者権利条約にも通じるものです. そこには,「障害のある人が,他の人と平等に,すべての人権と自由を享受できること」がうたわれています. つまり,1人1人が大切にされ,自分らしく暮らせる社会を実現したいという, 私たちの願いと重なっています. やどかりの里では,障害を「生活のしづらさ」と捉えています. それは,個人の中だけにあるものではなく, まわりの環境や社会との関係のなかで生まれるものだと考えています. しづらさを抱える人と向き合うときには,その人を変えるのではなく, いっしょに考え,工夫し,できることから,かたちにしていく―― その積み重ねを,大切にしています. そして,障害のある人の権利がきちんと守られることを土台に, 学び合い,声を届け,つ ながりを広げながら, 誰もが自分らしく生きていける社会を,目指していきます.
活動方針
やどかりの里では,かかわる1人1人が「主人公」です.
それぞれの意見や思いを大切にしながら,話し合い,学び合い,日々の活動を積み重ねています.
健康を守りながら暮らすこと,働くこと,活動を続けること――
病気や障害があっても,そんな営みを日々のなかで重ねながら,
そこから生まれた体験や知恵を分かち合い,社会全体の知恵として広げていきたいと考えています.
さいたま市をはじめ,埼玉県内,そして全国で思いをともにする仲間たちと力を合わせ,
誰もが,自分らしく暮らせる地域社会を,ともにつくっていきます.
<活動の柱> 1.主体的に考え,動く 1人1人が,自分の関心や思いを出発点に,考え,関わり,行動しながら,これからのやどかりの里をともにつくっていきます. 2.支え合いながら,地域に根ざした福祉を広げる 医療とは少し異なる視点から,回復や社会とのつながりを支える福祉的な活動を,地域のなかで育んでいきます. 3.安心できる精神科医療を目指して 治療について納得し,安心して受けられるよう,関係者とともに患者中心の医療のあり方を考え,広げていきます. 4.協力しながら,働く場をひらいていく 競争ではなく,おたがいに力を貸し合えるような環境を目指して.地域の方々,福祉施設,企業や関係機関と手を取り合いながら,働く場を広げていきます. 5.くらしを支える仕組みを守る・育てる 人としての権利がきちんと守られるよう,社会保障制度や施策がよりよくなるように,声を届ける取り組みを大切にします. 6.応援してくれる仲間を増やす 活動を支えてくれる人たちの輪を広げながら,財政的にも安定して活動を続けられるよう,工夫を重ねていきます. 7.地域の中でともに生きる 他の福祉施設や団体と手を取り合い,つながりを地域に広げながら,ともに生きるまちづくりを進めていきます.

増田 一世
代表理事
ご挨拶
やどかりの里は,1970年に,精神障害のある人たちとともに地域で暮らすことをめざして,その歩みを始めました.
病院の外で,ごくあたりまえの暮らしを営むことがまだ困難だった時代.制度も補助金もなく,資金も経験も十分ではありませんでしたが,私たちは「ともに生きる地域をつくりたい」という願いのもと,小さな実践を1つ1つ積み重ねてきました.
「病気や障害があっても,自分らしく暮らせることはあたりまえのこと」――
その思いを胸に,さまざまな困難に向き合いながら,支え合う人の輪を広げてきたこの半世紀の道のりは,私たちにとって,何よりの宝物です.
活動のなかで私たちは,誰かが誰かを一方的に支えるのではなく,それぞれの思いや選び方が尊重され,対等な関係のなかでともに歩んでいくことの大切さを学んできました.
そうした営みの先にあるのが,「1人1人が主人公」という私たちの合言葉です.この言葉には,やどかりの里の根幹が込められています.
現在では,就労・住まい・地域活動など多様な場をひらきながら,約300人のメンバーが,地域のなかでそれぞれの生活を営んでいます.その日々は,支援される/するという関係を超えて,「共にある」ことの豊かさを教えてくれます.
これからも,障害や病気があっても「生きていてよかった」と感じられる地域を,みなさんとともに築いていきたいと願っています.今後とも,やどかりの里の活動にあたたかなご理解とご協力を賜れましたら幸いです.
あゆみ
やどかりの里は,1970年に,精神障害のある人の地域での暮らしを支えることを目的として設立されました.当時は,制度や補助金も整っておらず,手探りのスタートでしたが,地域に根ざした暮らしの実践を,地道に積み重ねてきました.
こうした取り組みは,精神障害のある人の退院・地域移行を支える先駆的な試みとして注目され,のちに創設された精神障害者社会復帰施設制度(精神保健法に基づく)にも,大きな影響を与えました.
現在は,さいたま市を中心に,就労の場や住まいの場,地域活動支援センター,生活支援センターなどを運営し,障害のある人の地域生活を支える多様な取り組みを展開しています.法人全体では,約300名のメンバー(障害当事者)が,それぞれのかたちで関わっています.